「新リース会計基準はいつから適用?」「旧基準と何が違うの?」と、対応に悩む経理・財務担当者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、新リース会計基準の適用時期、対象範囲、そして実務上のポイントを徹底解説します。今回の改正は、国際的な会計基準であるIFRS第16号との差異をなくし、投資家への情報提供を充実させることが大きな目的です。最大の変更点は、借手の会計処理が「使用権モデル」に一本化され、これまでオフバランスだったリース契約も原則として資産・負債計上が必要になることです。この記事を読めば、新基準の全体像と、今から始めるべき具体的な準備、効率的な実務対応のヒントが明確になります。
なぜ今?新リース会計基準が導入された背景と目的
これまで多くの企業で費用処理として扱われてきた「オペレーティング・リース」が、なぜ資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上されることになったのでしょうか。この大きな変更の裏には、会計基準の国際的な潮流と、投資家がより正確な企業実態を把握できるようにするという明確な目的があります。ここでは、新リース会計基準が導入された2つの主要な背景を詳しく解説します。
IFRS第16号とのコンバージェンス
新リース会計基準導入の最も大きな原動力は、IFRS(国際財務報告基準)第16号「リース」とのコンバージェンス(収斂)です。コンバージェンスとは、各国の会計基準を国際的に統一された高品質な基準に近づけていく取り組みを指します。
近年、企業のグローバル化が進み、海外の投資家が日本企業に投資したり、日系企業が海外で資金調達したりするケースが当たり前になりました。このような状況下で、国ごとに会計基準が異なると、財務諸表を正確に比較することが困難になり、投資家は適切な投資判断を下せません。そこで、グローバルな資本市場において、日本企業の財務諸表の国際的な比較可能性を高めるため、IFRSの考え方を取り入れた新基準が開発されたのです。
投資家への情報提供の充実
もう一つの重要な目的は、投資家をはじめとする財務諸表利用者への情報提供を充実させることです。旧基準では、リース取引は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類されていました。このうち、オペレーティング・リースは資産・負債を計上せず、支払リース料を費用処理するだけでよかったため、「オフバランス取引」と呼ばれていました。
しかし、航空会社が航空機を、小売業が店舗を長期でリースする場合など、企業にとっては実質的に多額の資産を使用し、長期の負債を抱えているのと同じ経済実態であるにもかかわらず、その情報が貸借対照表に全く表示されないという問題がありました。これにより、投資家は企業の本当の財政状態やリスクを正確に把握することが難しかったのです。
新基準では、原則としてすべてのリースを資産・負債として計上(オンバランス化)することで、この問題が解消されます。以下の表のように、会計処理が統一されることで、企業の財務実態がより明確に財務諸表に反映されるようになります。
| 項目 | 旧基準(オペレーティング・リース) | 新基準 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S)への影響 | 計上なし(オフバランス) | 使用権資産とリース負債を計上(オンバランス) |
| 損益計算書(P/L)への影響 | 支払リース料(主に定額)を費用計上 | 減価償却費(主に定額)と支払利息(当初大きく、徐々に減少)を費用計上 |
この変更により、これまで見えにくかったリースによる負債が可視化され、財務諸表の透明性と企業間の比較可能性が飛躍的に向上します。これにより、投資家はより精度の高い企業分析や投資判断を行うことが可能になるのです。
新リース会計基準の適用時期と対象範囲を正しく理解する
新しいリース会計基準が「いつから」「どの企業に」適用されるのかは、経理担当者が最も気になる点でしょう。ここでは、適用開始日や対象となる企業の範囲、そして知っておくべき経過措置について、正確かつ分かりやすく解説します。
原則的な適用開始日
新リース会計基準の原則的な適用開始日は、2026年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首からと定められています。例えば、3月決算の企業であれば、2027年3月期の期首(2026年4月1日)から適用が開始されます。
対象となるのは、金融商品取引法の適用を受ける上場企業やその連結子会社、そして会社法上の大会社などです。四半期報告書を作成している企業は、適用初年度の第1四半期会計期間の期首から新基準を適用する必要があります。
| 決算月 | 適用が開始される事業年度 |
|---|---|
| 3月決算 | 2027年3月期(2026年4月1日~) |
| 6月決算 | 2027年6月期(2026年7月1日~) |
| 9月決算 | 2027年9月期(2026年10月1日~) |
| 12月決算 | 2026年12月期(2026年1月1日~)※ |
※12月決算の企業は、2026年1月1日が「2026年4月1日より前」に開始する事業年度となるため、原則適用は翌年の2027年12月期(2027年1月1日~)からとなります。ただし、多くの企業が早期適用を選択する可能性も考えられます。
早期適用と経過措置
新リース会計基準では、原則的な適用開始日を待たずに、前倒しで基準を適用する「早期適用」が認められています。具体的には、2024年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用が可能です。IFRS(国際財務報告基準)を任意適用している企業との比較可能性を高めたい場合などに、早期適用が選択されることがあります。
また、新基準への移行に伴う実務負担を軽減するため、経過措置が設けられています。会計方針の変更を遡って適用することが原則ですが、簡便的な方法として、新基準の適用初年度の期首より前に締結されたリース契約については、これまでのリース会計基準(旧基準)による会計処理をそのまま継続することが認められています。これにより、過去のすべてのリース契約を洗い出して再計算するといった膨大な作業を回避できます。ただし、この経過措置を適用する場合でも、適用初年度の期首以降に新たに締結するリース契約には、新基準を適用する必要があります。
新旧基準の会計処理を徹底比較 新リース会計基準のポイント
新リース会計基準の導入による最も大きなインパクトは、会計処理の変更点に集約されます。特に、これまでオフバランス処理が可能だったリース取引も資産・負債として計上する必要が出てくるため、企業の財務諸表に与える影響は甚大です。ここでは、新旧基準の会計処理を「借手」と「貸手」の視点から徹底的に比較し、変更点の核心に迫ります。
借手の会計処理 使用権モデルへの一本化
借手側の会計処理は、今回の改正で最も大きく変更される部分です。旧基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類に分類していました。このうち、実質的に資産を購入したのと変わらないファイナンス・リースは資産・負債として計上(オンバランス)し、それ以外のオペレーティング・リースは賃貸借処理として費用計上するのみ(オフバランス)でした。
しかし、新リース会計基準ではこの区分が撤廃され、原則としてすべてのリース取引を資産・負債として計上する「使用権モデル」に一本化されます。これにより、これまで費用計上のみで済んでいた多くのオペレーティング・リースが貸借対照表(B/S)に計上されることになり、企業の財務体質の見え方が大きく変わる可能性があります。
使用権資産とリース負債の計上
新基準では、リース契約を開始する日(リース開始日)に、借手は「使用権資産」と「リース負債」をそれぞれ貸借対照表に計上します。
リース負債は、リース期間にわたって支払うリース料総額から、リースに含まれる利息相当額を控除した現在価値で測定されます。つまり、将来支払うリース料を、一定の割引率を使って現在の価値に換算した金額です。
使用権資産は、基本的にリース負債の当初測定額に、リース契約締結のために直接かかった費用(当初直接費用)などを加えて計算されます。これは、リース期間中にその資産を使用する「権利」を資産として認識する考え方に基づいています。
| 勘定科目 | 計上額の算定方法 |
|---|---|
| 使用権資産 | リース負債の当初測定額 + 前払リース料 + 当初直接費用 ± 原状回復義務など |
| リース負債 | 未払リース料総額を割引率(追加借入利子率など)を用いて算定した現在価値 |
減価償却費と支払利息の計上
資産・負債を計上した後の損益計算書(P/L)上の処理も変わります。旧基準のオペレーティング・リースでは、支払リース料をそのまま費用として計上していました。しかし、新基準では費用が2種類に分解されます。
まず、計上した「使用権資産」に対して、リース期間を基礎として減価償却を行い、「減価償却費」を計上します。次に、「リース負債」の期末残高に対して、利息法を適用して「支払利息」を計算し、費用として計上します。
この結果、旧基準では毎年同額だった費用が、新基準では当初は費用が大きく、リース期間の後半になるにつれて小さくなる「費用前倒し」の効果が生まれます。これは、支払利息が負債残高の大きい初期に多く計上されるためです。この変更は、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)などの経営指標にも影響を与えるため、注意が必要です。
| 旧基準(オペレーティング・リース) | 新基準(使用権モデル) | |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 計上なし(オフバランス) | 使用権資産とリース負債を計上(オンバランス) |
| 損益計算書(P/L) | 支払リース料を費用計上 | 減価償却費と支払利息を費用計上 |
貸手の会計処理 大きな変更はなし
借手とは対照的に、貸手の会計処理については、旧基準の会計処理が基本的に維持され、大きな変更はありません。
引き続き、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれの会計処理を適用します。ファイナンス・リースではリース債権を計上し、オペレーティング・リースではリース資産を固定資産として計上し、受取リース料を収益として認識します。したがって、貸手企業の実務においては、新基準への対応負荷は比較的小さいと言えるでしょう。
簡便的な取扱い 短期リースと少額リース
すべてのリースを資産・負債として計上するのは、実務上の負担が非常に大きくなります。そのため、新リース会計基準では、重要性が乏しい特定のリース取引について、会計処理を簡素化できる「簡便的な取扱い」が認められています。
この簡便法の対象となるのは、「短期リース」と「少額リース」です。
- 短期リース:リース期間が12ヶ月以内のリース。
- 少額リース:リースされている原資産そのものが少額であるリース。(※明確な金額基準は定められていませんが、IFRS第16号では新品時価額で5,000米ドル以下が例示されています)
これらのリースに該当する場合、借手は新基準の原則的なオンバランス処理を適用せず、旧基準のオペレーティング・リースと同様に、支払リース料を費用として計上することが可能です。どの範囲までを少額リースとして扱うかなど、企業は自社の状況に合わせて会計方針を定める必要があります。
| 種類 | 概要 | 会計処理 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース期間が12ヶ月以内のリース | 使用権資産・リース負債を計上せず、支払リース料を費用計上できる |
| 少額リース | 原資産の価値が僅少であるリース |
新基準への移行準備と効率的な実務対応
新リース会計基準への対応は、単なる会計処理の変更にとどまりません。全社的なプロジェクトとして捉え、計画的に準備を進めることが成功の鍵となります。ここでは、具体的な移行準備のステップと、業務を効率化するための実務対応について解説します。
社内体制の構築と業務フローの整備
新基準へのスムーズな移行を実現するためには、まず経理部門だけでなく、関連部署を巻き込んだ全社的な推進体制を構築することが不可欠です。その上で、新基準に準拠した業務フローを整備し、関係者全員が正しく理解・運用できる状況を作る必要があります。
具体的な移行準備は、以下のステップで進めることを推奨します。
| ステップ | 主な実施項目 | ポイント |
|---|---|---|
| Step 1: プロジェクトチームの発足 | 経理、財務、法務、IT、資産を管理する事業部門などから担当者を選出し、推進体制を構築する。 | 経営層への定期的な進捗報告と意思決定のプロセスを明確にすることが重要です。 |
| Step 2: リース契約の網羅的な把握 | 本社、支店、子会社を含め、社内に存在する全てのリース契約および賃貸借契約をリストアップする。 | これまで費用処理していたオペレーティング・リースや、不動産の賃貸借契約も新基準の対象となるため、契約書の保管場所や管理部署を特定し、漏れなく収集します。 |
| Step 3: 会計方針の決定 |
| 企業の実態に合わせて会計方針を決定し、その根拠を文書化しておくことで、監査対応もスムーズになります。 |
| Step 4: 影響額の試算と開示準備 | 収集した契約情報と決定した会計方針に基づき、新基準を適用した場合の財務諸表(特に貸借対照表)への影響額を試算する。 | 試算結果は、投資家や金融機関への説明資料となります。また、決算短信や有価証券報告書で必要となる注記情報の準備も開始します。 |
| Step 5: 新業務フローの設計と周知 | 契約締結時の情報収集プロセス、会計システムへの入力方法、契約変更時の対応、決算時の開示情報作成プロセスなどを新たに設計し、マニュアル化する。 | 関係部署への研修会を実施するなど、新しい業務フローが現場に定着するよう、丁寧な周知徹底が求められます。 |
プロシップ等のシステム活用で移行をスムーズに
新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約をオンバランス(資産・負債計上)するため、管理対象となる契約件数が大幅に増加します。さらに、減価償却費や支払利息の計算、契約条件変更に伴うリース負債の再測定など、会計処理が複雑化します。
これらの業務をExcelなどの手作業で管理しようとすると、膨大な工数がかかるだけでなく、計算ミスや管理漏れといったヒューマンエラーのリスクが飛躍的に高まります。
そこで有効なのが、リース管理に特化したシステムの活用です。株式会社プロシップが提供する「ProPlus」のようなリース資産管理システムや、大手会計ソフトのリース対応モジュールを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 契約情報の一元管理: 契約内容、リース期間、リース料、割引率などの情報を集約し、管理を効率化します。
- 複雑な計算の自動化: 使用権資産やリース負債の計上、毎月の減価償却費と支払利息の計算、契約変更時の再測定などを自動で処理します。
- 仕訳データ・開示資料の作成支援: 会計システムと連携する仕訳データを自動生成したり、決算で必要となる注記情報を出力したりする機能により、決算業務の負荷を大幅に軽減します。
- 内部統制の強化: 業務プロセスの標準化と証跡管理により、内部統制の強化に繋がります。
自社のリース契約件数や事業規模、既存の会計システムとの連携性を考慮し、最適なシステムを選定・導入することが、新基準への対応を成功させ、継続的な業務効率化を実現するための重要な一手となるでしょう。
まとめ
本記事では、2026年度から原則適用される新リース会計基準のポイントを解説しました。新基準が導入される主な理由は、国際的な会計基準であるIFRS第16号との差異を解消し、これまでオフバランス処理が可能であったオペレーティング・リースも財務諸表に計上することで、投資家への情報提供を充実させることにあります。
新基準における最大の変更点は、借手の会計処理が「使用権モデル」に一本化され、原則としてすべてのリース契約が使用権資産とリース負債として貸借対照表に計上されることです。一方で、貸手の会計処理に大きな変更はなく、短期リースや少額リースについては簡便的な取扱いが認められています。
適用開始までまだ時間があると考えず、自社が対象となるリースの洗い出しや影響額の試算といった準備を早期に開始することが不可欠です。必要に応じてプロシップのようなリース資産管理システムを活用し、計画的に社内体制と業務フローを整備していくことが、スムーズな移行の鍵となります。
